特別給付金は適切に支給されたか

 

住民票の住所に暮らしていない人々

新型コロナウイルス禍は、ベールで隠されたさまざまな現象を明るみに引き出している。そのひとつは、住民票で示された住所で暮らしてはいない人々が存在し、社会的弱者にはその例が多いことだ。その多くは、家族との関係を切りたいと願い、見つかるのを恐れ、隠れるように暮らしている。コロナ禍によるダメージを真っ先に受けてしまう人々だ。それにもかかわらず、行政施策の恩恵をもっとも受けにくい。その例が特別給付金だ。

新型コロナウイルスによる被害をカバーする一律10万円の特別給付金の支給が大詰めを迎えている。1人につき10万円の支給は、困窮状態にある人々にとっては大きな恵みだ。それなのにこれほど時間がかかったのにはあきれるばかりだが、そのことは脇に置くとしよう。懸念するのは給付金がすべての国民に適切に届いたのだろうかという点である。

 

多様な家族の実態を無視してスタートした特別給付金

給付金は世帯主がまとめて受けることになった。このような方法をとったのは、膨大な事務手続きを効率よく進めることができると考えたからだろうが、家族の多様化は世間の常識を超えて先を行っている。大黒柱の世帯主(夫・父親)と妻と子どもで構成される集団が家族だという固定した認識は実態に合わなくなっている。その被害を受けるのは、虐待や暴力や搾取に苦しむ家族のなかの弱者である。その現実が無視されたまま、特別給付金はスタートした。

 

世帯主が一括受給する過ち

大学生や単身赴任者を除いて、居住地と住民票の住所が一致しない例のなかには、世帯主が世帯員の利益を代表することがふさわしくない事例が少なくない。DVを受けてシェルターに避難している母子、親の虐待に耐えかねて家出しネットカフェで過ごす少年・少女や一時保護所に保護されている子どもなど、住民票のうえでは親や夫と同一世帯であっても家族としての内実がないばかりか、家族が甚大な害悪の源泉となっている例が増加している。親の虐待や夫のDVから逃れている子どもや女性は居場所をつき止められるのを恐れて住民票をそのままにしている。そうした人々こそ10万円の特別給付金でどれだけ助かるかしれない。実態を無視して世帯主に一括支給することがどれほど福祉に反することになるか、強い認識が必要である。

 

家族には共通の形があるという固定観念を捨てること

 自分の給付金が夫や親に支払われてしまうことを防ぐには代弁者も必要だった。このような人々が受給から漏れることを指摘し国に要望したのは、日ごろから弱者の窮状を知って活動してきた民間団体だった。新型コロナ禍は、社会的弱者にもっとも大きなダメージを与えた。家族には共通の形があるという固定化した観念をもとに行政施策を講ずるべきではない。一人ひとりの個人にアプローチし、その利益を守るという立場に立つべきだ。