テレワークの常態化は公私統合への道

 

■在宅勤務は画期的なできごとだった

 

 

新型コロナウイルスが広がるなかで、在宅勤務を余儀なくされたことは歴史的に見て画期的なことだったと私は思う。公的生活(職業生活)と私生活(家庭生活)の間の厚い壁に風穴があいたからだ。テレビ会議のモニターに子どもや猫の姿が見えたり、子どもの泣き声が聞こえるようになったことは、その象徴だろう。在宅勤務がにわかに始まり、テレビ会議のなかに突然家庭の生活音が入ってきたことに戸惑ったり違和感を感じた人は少なくなかったかもしれない。しかしやがて、お互いさまと感じるようになったり、同僚の別の姿に触れて親近感を覚えるようになったという声も聞く。コロナ後もテレワークが定着すれば、公私の統合がさらに進み、私たちのくらしを大切にする感性が育っていくのではないか。これを私は期待している。

 

 

■くらしを日陰に追いやった職住分離社会

 

思えば、自営業中心の時代から雇用者中心の時代へと転換して職住分離社会が始まって久しい。その結果、職場は、日々のくらしや子育てや介護のことを微塵も出せない場となってしまった。「私生活を職場に持ち込まないこと」、これが社会規範となり、くらしは日陰に追いやられた。私生活とは衣食住のくらしであり、精気を養い、子どもを産む・育てる、看病や介護をするくらしである。それがもっぱら女の仕事となってしまった。家庭をもちながら働く女性は、公的生活に専念できる男性たちに交じって、私生活の重荷を隠して働くつらさを味わってきた。私ごとになるが、私が子育てをしながら大学勤務をしていた頃、保育園のお迎え時刻に合わせて息せき切って職場を出ようとしていた時、同僚の男性たちは控室で囲碁に興じている姿をみて疎外感と怒りさえ感じたことを今でも鮮明に覚えている。

 

 

■職住分離を常態とした社会では生きていけない

 

しかし時代は大きく変化しつつある。今や、家族の多様化が進み、男女を問わず避けられない義務を果たさねばくらしは成り立たなくなっている。共働きしながら子育てする人、子育てするひとり親、遠方に住む親の介護をする人、老親や障がいのある子どもをデイケアに預けながら働く人、癌や慢性病で通院しながら働く人がたくさんいる。だれもがこの状態になる可能性がある。だからこれまでのような職住分離を常態とした社会では生きていけないのだ。

 

新型コロナ禍によって、それまで改革しようとして進まなかった働き方改革が一気に進んだ。ビデオ会議サービス「ZOOM」の利用者が世界中で増えた。これを使えば職住分離、公私分離の難点を難なく乗り越えられることを多くの人が知った。テレワークの実施率は全国で34.6%、東京23区で55.5%だった。内閣府の調査ではテレワーク経験者を中心に生活を重視する人が増えている。あとはテレワークを常態にすることだ。過去に戻ってはならない。

 

 

 

コメントをお書きください

コメント: 1
  • #1

    井上 恵子 (火曜日, 30 6月 2020 08:40)

    まさにそのとおりです。今まで以上に無給労働が増え、知的財産が脅かされます。組織の上に立つ者の人権意識の問題であり、業績主義の弊害でもあります。労働組合員にもなれずに、その餌食になる無給状態はどうしたらいいのでしょう!