なぜ出生率の低下は止まらないのか

 

 

■歯止めがかからない出生率低下

 

 コロナ禍の中で2019年の人口動態統計が発表された。出生率は1.364年間連続減少。少子化対策の効果はまったくあがっていないのだ。母親の5歳ごとの年代別でも、すべての年代で前年を下回った。死亡者総数が出生者総数を51万人も上回り、若い世代の先細り傾向に歯止めがかからない状態にある。新型コロナウイルスの影響で、若い世代の就職難、所得低下が始まっていることを見ると、これ以後出生率が上昇する要因は残念ながら見つからない。日本の低出生率の最大の原因は晩婚化と非婚化、とくに非婚化の影響が大きい。

 

■就職氷河期世代の不運はコロナ禍で放置か?

 

1990年代のバブル崩壊、2008-9年のリーマンショックなどによって安定した仕事に就く機会を失った若者の問題に私はかかわってきた。その頃から非正規雇用者その他の不安定な就労状態にある若者が増加するようになった。就職氷河期世代の先頭集団は今、40歳台の半ばに達しているが、社会人としてのスタートラインでの躓きを未だに引きずって非正規雇用や無業やひきこもりの状態にいる若者が少なくない。

 

昨年、政府は就職氷河期世代の正社員化を進める施策を打ち出し、取り組みが始まろうとしていた矢先に新型コロナ禍に見舞われ、施策の効果どころか新たな就職氷河期が生まれるのではないかと懸念される。日本社会の悪い点は、人生のスタートラインでうまくいかないと、その後に挽回するチャンスがないことだ。不運にも10年に一度の不況の波を被った集団は、その後もずっと不遇のまま放置されかねない。

 

 

■若者の社会保障が、ある国とない国のちがい

 

私は、欧州のいくつかの工業国の若者と日本の若者の比較研究をしてきた。欧州の場合、スタート時点で非正規雇用であっても、何年か後には正規雇用に転じている。しかも日本と違うのは、たとえ非正規雇用であっても、親の家を出て独立の生計を立て、そのうちには子どもをもっている率が高いことだ。それは、所得保障、失業、家族関連、住宅関連などの社会保障費がどのような若者にも適応されるからで、賃金の不十分さを社会保障費が補償しているのだ。

日本はどうか。非正規雇用の若者の大半は親元で暮らしている。親の家を出てひとり暮らしをしたり、結婚したり子どもを持つことと無縁のままだ。なぜなら、若者に対する社会保障がほとんどなく賃金だけが頼りで、それが少なくてもそのままである。若者は生活に困ったら親元にいれば大丈夫だと考えられている。やむなく不安定な仕事を続けている若者たちは、生計を立てられるようになる見通しが立たない。絶望の淵に立たされている。

若者の所得は、”失われた20年”で低下を続けている。若者を労働市場の成りゆきに任せて社会的支援を放棄していたら「絶望」を感じる若者は増加し続け、出生率の低下に歯止めはかからないだろう。若者の雇用と社会保障を見直す必要がある。