劣悪なすまいと感染症

 

新型コロナウイルスのような感染症から身を守るには相部屋ではなく個室が必要だ。つまり適切な広さのある空間が、コロナから身を守るため、また感染の拡大防止のために必要なのだが、その条件を満たさない例は珍しくない。とくに社会的支援を必要としている人々の住まいは深刻な状態にある。

 

ソーシャル・ディスタンスという方法は、住宅環境に恵まれない人々にとって致命的な問題となる。住む家を失った人たちを受け入れる施設の多くは相部屋・大部屋が多い。無料定額宿泊所、DVや虐待から逃れてきた人を受け入れるシェルター、災害時の避難所や仮設住宅もそうだ。さまざまな困難を抱えアパートを借りるだけのお金のない人々の支援をしてきた団体は、感染防止のために個室を確保しなければならない事態のなかで立ち往生をしている。

 コロナ禍の前から、安心して住まえる家のない人は増える傾向にあった。そこにコロナウイルスが追い打ちをかけた。緊急事態が始まり仕事を失ったり減収になって家賃が払えなくなった人々が急増している。

   支援団体や労働組合には、家賃が払えない、寮を追い出されるという相談が3月から殺到している。

リーマンショック時に仕事も住まいも失って相談機関に殺到したのは主に製造業派遣で首を切られた男性だった。ところが作家の雨宮処凛さんによると、今、あらゆる業種の女性たちからの相談が来ているという。観光、ホテル、飲食、テーマパーク、学校給食などの現場で働く、アルバイトや非正規の女性たちだ。 (BIG ISSUE Vol.383.p16-17)。シングルマザーも窮地に立たされて相談機関に駆け込んでいる。

 

 さて、都内のネットカフェをすまいにする人は4000人といわれてきた。そのネットカフェが閉鎖することを受け、小池百合子都知事は当初ビジネスホテルを100室用意すると言った。しかし支援団体などの「全然足りない」という声に応えて2000室に増やした。一方、神奈川県で用意した施設は相部屋。食事も出ず、暖房もない状態で簡易ベットと毛布3枚だけ渡されているという。雨宮さんは、「所持金のない人は飢えていくばかりではないか」と記している。

 

その日の食事にも事欠き、コロナウイルスから身を守るすべもない人々に対して何が必要なのか。感染者を増やさないためには、雨露を凌げれば困窮者にはどんなすまいでもよいとする従来の行政方針では解決しないことは明らかだ。